ばしょうの日常

社会人一年生のひとりごと

実際に大学の入学金が減額されたらどうなるのか。そう単純に負担が減るわけではない現実があった

 

はじめに

大学に入学する際、新入生は入学金を払う。その金額は、公立や私立に関わらずおよそ25万円くらいと言われており、その他の学費(授業料や設備完備費など)も払わなければならないことを考えると、かなりの出費になるだろう。

また、大学に入学するわけでもないのに、入学金を納めなければならないケースも存在する。例えば、「一般受験で合格した生徒が滑り止めとして籍だけ置いておく」というものである。もし第一志望校が合格したら、滑り止め校に払った入学金は無駄になってしまう。入学するわけでもないのに入学金を払わなければならない現実がある。

 

そんな入学金だが、「入学金が高い」という声や「なぜ行かない大学に入学金を払わなければならないのか」という声がある。実際に運動が起きている例もある。

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入学金を減額してほしい・払いたくない側の主張としては、

「高い入学金があることで受験時の選択肢が減ってしまう」
「家計への負担が大きすぎる」
「入学しないのに入学金を払うのはおかしい(動画ニュースより)」

と言った主張になるのであろう。

 

一方、大学側としてはおそらく

「入学金は重要な収入源だから減らせない」
「入学保険のようなものだから払って当然」

こんなことを考えているため、結果的にはなかなか入学金が減額されることはないのであろう。

 

このブログの本論は「入学金が減額されたらどうなるのか」ということなので、入学金があった方がいいのかどうかについてはコメントしない。

しかし、そこまで入学金が負担であるという声があるのであれば、実際に入学金が減額されたらどうなるのであろうか。今回はその点について検証してみたい。

なお、これから話すことはあくまでも私の考えであり、間違っていることや否定したい部分も出てくるだろうが許容していただきたい。あくまでも私個人の一意見として楽しんでいただけたら幸いだ。

 

大学の入学金が減額されるとどうなるのか

定義

では、実際に大学の入学金が減額されたらどうなるのだろうか。まずは入学金が全額免除となるのではなく、ひとまず減額したらどうなるか考えていきたい。

 

まず大前提として、入学金は大学にとって大事な収入源であることを強調しておきたい。大きな大学の場合、新入生が1万人で入学金が25万円だった場合、それだけで25億円の収入である。新入生が半分の5000人であっても12.5億円、1/4の2500人でも6.25億円。大学にしてみれば、喉から手が出るほど欲しいお金だろう。

しかし、実際は入学する人以外も入学金を払っていることがほとんどである。滑り止めとして押さえておいたが、結局入学しなかった人の分も入れると、より多くのお金が大学に入ってくることになる。

 

改めて「滑り止め校に払う入学金」について説明していきたい。

AOや指定校など推薦入試の場合、基本的には併願することは不可能なことが多く、第一志望の学校のみを受けることになる。そこで受かれば合格した大学に入学金を払う。自分が行く大学にのみ入学金を払えばいい。

しかし一般受験の場合は、基本的に受験生は複数の大学に出願することになる。そして、受験は大体偏差値が低い大学の方が日程が早く、高難易度の大学は遅めに受験日が設定されている。受験生は初めの方は低偏差値大学を、そして終わりの方に高偏差値大学を受験する(もちろん例外もある)。もちろん受験日が早い方が結果も早く出るし、入学金の納付期限も早い。

しかし受験生は、もしハイレベル大学や第一志望の大学に受からなかった場合に備えて、その前に受かった大学にとりあえず籍を入れておくということをする。その時に払うのが「入学しないかもしれないのに払わされる入学金」だ。

 

さて、それでは実際にシミュレーションをしていこう。

今回は三つの私立文系大学(A〜C)を想定する。なお、一部非現実的な大学があるかもしれないが、ご了承いただきたい。

 

まずは3大学の定義を作る。A〜Cの大学をそれぞれこのようにする。

 

A大学:偏差値70の超ハイレベル大学、受験日2/20、合格発表日2/25、入学金期限3/4

B大学:偏差値55のそこそこいい大学、受験日2/10、合格発表日2/15、入学金期限2/24

C大学:偏差値45の大学、受験日2/1、合格発表日2/5、入学金期限2/14

 

また、各大学も入学定員を5000人入学金を20万円それ以降の学費は年間100万とする。そして、受験生は受かった中で最も偏差値の高い大学に行くことにする。さらに、大学の補助金はどの大学も同じで、入学金の収入が減った分は、在学中の学費にその分をプラスすることにする。

また、見てわかるように各大学で入学金期限と合格発表が被っていないことにする。この場合、もし三つの大学とも受験して、全部受かるとしても(頭良すぎ)、安全のために入学金をA大学とB大学にも払う必要があるだろう。(よっぽどこの受験生が結果に自信のある人なら話は別だが。)そうすると、入学金は各大学に20万ずつ払って、合計60万円になる。実際にはもう少し日程をうまく組んで、なるべく入学金を払うことがないようにするが今回はあえてこうしている。

 

シミュレーション

では実際に、入学金を半額の10万円にしたらどうなるのか考えてみよう。

 

まず、A大学の場合だ。

A大学に進学する人は、まずA大学に入学金として10万円を払う必要がある。しかし、入学金が減ってしまった分を補填するために、学費が4年間で10万円増える。しかしこれは、あくまでも10万円を払う時期が入学時なのか在学時なのかの問題であり、結果的にA大学に払う金額は変わらない。そして、もしB大学やC大学に受かった場合は、その大学にもそれぞれ10万円を払うことになるが、これに関しては入学金が半額になったことで少し負担が減ることになる。

つまりだ。高偏差値大学では入学金が半額になっても大学に払わなければならない金額は変わらない。さらに、併願大学にはらう入学金の負担も減るため、金銭的には優しくなるかもしれないことになる。

 

 

次に、B大学の場合だ。

A大学と同様、B大学に入学する人は入学金が10万円で、入学金が減ったことに伴う補填で在学中の学費が4年間で10万円分増える。ここまではA大学と大差ない。しかし問題はここからだ。

B大学を受験する人には、A大学を受験する人もいる。B大学にもA大学にも受かった人はA大学に行く設定にしているが、B大学にはA大学に行く人が滑り止めとして払っていく入学金の収入もある。つまり、「入学しないのに払う入学金」の存在がB大学には存在するのだ。通常時は20万円だが、これが半分になるので10万円。もしこの「入学しないのに払う入学金」を払う人が1000人いたとしたら、大学の収入は2億円から1億円に減ってしまう。ではこの減ってしまった1億円は誰が負担するのだろうか?B大学に在学する学生である。

結論を言うと、B大学では入学金が半分になると、減ってしまった「入学しないのに払う入学金」を補填するため結果的に学費が高くなる。先ほどの例を使うと、1億円÷入学人数5000人で、一人二万円学費が高くなる。

 

なんとなくわかってきただろうか。

では、C大学をみてみよう。

減額した入学金(10万円)を補填するために、学費が4年間で10万円分増えるのはA、B大学と同じ。しかし、C大学はあまり偏差値が高くないため、高偏差値大学を志望する人の滑り止めになりやすい。B大学の場合は、A大学の滑り止めになるだけでよかったが、C大学の場合はA大学の滑り止めにもなるし、B大学の滑り止めにもなる。ということは、「入学しないのに払う入学金」もA、B大学分なので増える。しかしその入学金が半分になれば、その分を補填しなければならなくなり、その負担はB大学の場合よりも多くなる可能性が考えられる(低偏差値大学は志願者が減ることも考えられるが、今回は考慮しない)。もしC大学を滑り止めとして利用する人がA大学に行く人で500人、B大学で1000人であれば、減額前に入ってきた入学金は1500人×20万円で3億円、それが減額して半分になるので、1億5千万円になる。この金額を入学者で負担しようとすると、学費は入学金減額前よりも3万円高くなる。

つまり、C大学ではB大学以上に学費が高くなってしまうことが考えられる。

 

 

私の計算結果では、入学金を減額すると低偏差値大学にしわ寄せがくるということになった。そして、高レベル大学よりも低レベル大学の方が学費も高くなる。これには、滑り止めで納入される入学金が大きな影響を与えている。

なお、あくまでも今回はシミュレーションとして考えたものであり、実際にはもっと複雑な問題であることは述べておきたい。

 

なお、「入学金をそもそも撤廃すれば良いのではないか」と考える方もいるだろうが、もしそうしても結果は変わらないだろう。

もし現行制度のまま入学金を撤廃しようとすると、現段階で滑り止めの入学金収入が多い大学は収入を大きく減らすことになり、良い教育が行えなくなったり、その収入分を在学生の学生に支払わせたりすることに繋がる。

 

学習機会と貧富の差

ここまでで、入学金を減額すると低偏差値大学にしわ寄せがやってくることがわかったと思うが、入学金を減額することで起こる問題はそれだけではないと考えられる。

 

まず、レベルの高い大学に行く学生の親は、高収入であることが多い。日本一の大学である東京大学では、学生の60%が親の年収が950万円以上であるというデータがある。高収入であるため、親は子供を塾に行かせたり私立受験をさせることができたり教育にお金をかけることができるのである。そして日本の場合、レベルの高い大学に行くほど賃金の高い職業につけることが多い。また、人はなるべく同じレベルの人間と結婚することが多いため、おそらく収入の高い職業の人と結婚することになることも少なくないだろう。そうすると、男女とも高収入の夫婦ができる。その夫婦が子供を作ると教育に多くのお金をかけられるため、子供もいい大学に行ける可能性が高くなる。つまり親の収入が高いと子も良い教育をかけることができるという再生産が起こる。このような場合、大学の入学金が減ろうが大した問題にはならないだろう。

一方で、親が低収入の場合は子供にかけられる教育費も減ってしまう。そのため、受験者本人は実力以下の大学に行かざるを得ないことも考えられる。しかし、そこで待っているのは、入学金が減ったのに学費がこれまでより増えた、という現実である。もし家が低収入の子供が低ランク大学に通うことになったら、親子ともに「教育にはお金がかかる」「教育に高いお金をかける必要がない」というイメージを与えることになりかねない。さらに、そのような環境で育った人は将来子供ができても教育への悪いイメージが残るため、教育にお金をかけず、子供も親と同じような運命に「半ば強制的に」なってしまうかもしれない。

 

つまり、入学金が減ると、高収入の家庭を持つ人は滑り止め校に払うお金が減るので負担が楽になるのに対し、低収入の家庭を持つ人は学費が高くなり負担が余計にかかる。お金の負担を減らすために入学金を減らしたのに、結局お金に困っている人の負担を増やすことになるというのはとても皮肉なことだ。

 

ではどうすればいいのか

先ほどの説明では入学金を減らすことで減少した大学の収入を学生に払わせるようにしていたが、それではうまく行かなかった。それでは、入学の負担を減らすにはどうすれば良いのだろうか。

一つ目の方法は、大学に補助金をもっと与えることだ。大学が減少した収入を学生に払わせることがないようにする方法である。こうすると、大学の学費は変わらないか減ることになり、大学に入ることの障壁を減らすことに繋がる。しかし、この方法では子供への再生産が固定化されてしまう。もし学費が減額しても、そもそも入学までの教育費(塾など)が変わることはなく、家族が負担する教育費も低収入家庭にとって痛手なことには変わりない。

 

そこで、私は教育補助金を大学ではなく個人に与える方を拡充した方が良いのではないかと考えている。こうすることにより、お金に余裕のある家庭の負担は変えないまま、お金に余裕がない家庭を確実に助けることができる。また、個々の家庭事情に応じて支援額を変えることができるため教育の機会を均等に与えることに繋がると思う。

 

今回は大学の入学金が減額されたらどうなるのかみてきた。単に入学金を減らせばいいという問題ではないことがわかっただろう。特に現在は、親の収入によって教育の質が変化してしまうような社会だ。少なくとも、誰もが良い教育を受けることができる機会を与えられるような社会に変わっていってほしいと私は考えている。

 

 

 

参考文献はこちら

hoken.rakuten.co.jp

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